チャレンジするのは誰しも不安
なんにでもチャレンジできる人を見ると羨ましくなりまますよね。誰しもそうかもしれませんが、私もなってしまうんです。
- なんで失敗が怖くないんだろう。
- なんであんな堂々と失敗できるんだろう。
- ようやるよな、失敗したら恥ずかしくないのかな。
- 怒鳴られるよりやらないほうがマシじゃない?
そんなことが頭をよぎります。
- 自分だってやってみたい。
- 自分だって成功したい。
- 自分だってほめられたい。
意識ではそう思うのに、いざ挑戦の機会があったとしても手は上がらない。心の奥底で、自分自身の恐れている心が「やめといたほうがいい」と囁くからです。
でも、実際のところはどうでしょう。チャレンジしないことが、なにもしないことよりもよほど怖いことだったとしたら、そんなことを考えたことはあるでしょうか。
チャレンジと失敗。それが今回のお話の大切なテーマになります。
理解し、考え方を見直すことが失敗を恐れず、自分を前向きにチャレンジさせるきっかけになりえます。そして、それは大きなメリットにも繋がります。
失敗に対する捉え方を変えること・・
さて、チャレンジする人、チャレンジしない人それぞれに違いがあるとしたら、それは考え方の違いです。
より具体的にいうと「失敗に対する捉え方の違い」にあります。これだけだと「はいはい、聞いたことあります」となるかもしれませんね。
何世代も受け継がれてきた名言があります。
「失敗は成功の母」とはエジソンの言葉です。私はもっぱら「失敗は成功のもと」と言われてきましたね。訳の違いでしょうか。
とても有名な言葉ですよね。大人になるまでにどこかで一回以上は聞く言葉です。
でも、誰もが「成功には失敗がつきもの」だと聞いたことがあるのに失敗を恐れる。
そりゃそうです。だって、
- 怒られるかもしれない。
- 恥ずかしい目にあうかもしれない。
- 悲しい結果に終わるかもしれない。
- 周りからの評価が下がるかもしれない。
- より厳しい管理やルールで縛られるかもしれない。
・・わけですから。
過去の嫌な経験が「危険を回避せよ」と脳に訴えかけてくるわけです。名言よりももっと具体的で現実的な脅威が容易に想像できます。
想像できないものより、見えるものを優先するというのは人の性です。ノーベル経済学賞受賞の心理学者ダニエル・カーネマンさんはこのことを「みたものが全て」と表現されています。
つまり、知っている、聞いたことがあるだけでは不十分で、理解し、現実的に想像することが、無意識の「逃げたい!」「やめよう・・」といった逃走反応から抜け出すきっかけになります。
無意識の逃げ出したい気持ちを知る
無意識に生まれる「怖い」「逃げ出したい」の逃走反応から抜け出すにあたっては、人が持って生まれる性質を把握し、認識することから始めましょう。客観的に自分を観る。そんなきっかけになってくれるはずです。
「最高の脳で働く方法」の著者デイビッド・ロックさんによれば、脳には生きることと同等に扱う社会的経験があるそうです。
それは、
Status(ステータス)
Certainty(確実性)
Autonomy(自律性)
Relatedness(つながり)
Fairness(公平性)
の5つです。平たくいうと「人間関係において大切に感じる5つのこと」でしょうか。著書は、頭文字を取って「SCARF」モデルとして紹介しています。
誰かに認められたい
なにが起こるかわからないのは不安
自分で選びたい
だれかと繋がっていたい
あいつだけなんで得するの?
このようなありきたりの感情が当然だと思うなら感覚的に理解できそうです。
そして、こんなものがあるんだと考えるとチャレンジを怖がる心理も理解できてくるのではないでしょうか。
- 怒られたり、恥ずかしい思いをすることで自分の尊厳が損なわれるかもしれない(ステータスの低下)
- より厳しいルールで縛られるかもしれない(自律感の低下)
- 「あいつはダメだ」と見放されるかもしれない(つながりの減少)
- なにより、成功するかわからない(確実性のなさ)
こういうことをなにより避けたいわけです。
そうしてこれらはあなただけの問題ではなく、人であれば誰にでも起こりうる自然な反応でもあるわけです。少し気が楽になりませんか。
「ああ、自分だけがダメダメなわけじゃないんだ」
「人ならごくごく自然な反応なんだ」
そんなふうに認識が変わりませんか。
とはいえ、生存戦略であるこの性質も、知らなければ、自分を卑下する、自分を追い込みかねない材料になってしまう場合があります。
人はネガティブな感情に陥ると過去の嫌な経験を思い起こす傾向があります。
- 嫌なこと、危険なことは避けたい
- 過去の経験を紐解けーっ!
- ほら、こんなことあったろ、あかんやつや。
- だからやめよ
みたいなことになるわけです。
生き残るための生存戦略としては充分理解できるものの、チャレンジ精神が欲しい場面ではあまり好ましくありません。
だからこそ、人本来の性質というものは知っておいて損はありません。それだけで目の前の状況と感情に対して、客観的な視点を持って臨むことができます。
成功に至る確率。するか、しないか
進化生物学者リチャード・ドーキンスの著書『盲目の時計職人』の中でこのような仮説が紹介されています。
猿がランダムに叩いた鍵盤から文字が生まれる確率
もしタイプライターの鍵盤を猿がランダムに打ったとしたら、シェイクスピアの『ハムレット』の一節、”Methinks it is like a weasel”(おれにはイタチのようにも見えるがな)を打ち出す確率はいったいどのくらいだろう?
側から見ると無謀そうだと直感的に分かる話しですよね。
アルファベットだけでも26文字あります。
答えは、10の40乗分の1の確率です。ピンとこないですよね。宝くじの1等の確率が2000万(10の7乗×2)分の1です。そう考えると途方もない確率です。
ここからわかるのは「運だけでは正解に辿り着くことは難しいだろう」ということです。とはいえ、人はそこまでランダムには動きません。
失敗し、工夫し、学び、成長し、求める正解に向けた選択を行います。だからこそ、ハムレットの一節も難なくタイピングすることができます。
この実験には続きがあります。ランダム性は残したままちょっとした工夫を付け加えました。
猿が打つようなランダムな文章が生成されるコンピューター・プログラムを作り、生成したデタラメな文章をその都度チェック。目標の一節にわずかでも一番近いものだけを選択し、残りをすべて排除する。そして選択した文章にはランダムな変化を加え、次世代の文章を作り上げる。そのあとまた同様のチェックを続けていく。
この「少しでも上手くいったものを活かす」工夫をしたところ、およそ30分。43世代目でハムレットの一節にたどり着いたそうです。
途方もないと思われた工程を、プログラムとはいえ望む結果を、しかも30分で得られたというのはすごいことではないでしょうか?宝くじの一等を当てることは、コンピューターだってできません。
一途に、正解を求め、今ここにあるものを土台に、正解に近づこうとすること。これが途方もないことをやり遂げる工夫になるということです。
累積淘汰は身近にある
この工夫の仕組みには「累積淘汰」という名前があります。探せばたくさんあるものの身近なところで私は、娘の縄跳びや鉄棒の練習、お絵かきに無意識の累積淘汰を感じます。
私自身も例えば、コーヒーをドリップする時に「累積淘汰してるな」と実感します。
「あれ、このコーヒーなんだか渋味があって不味いな」
「お湯の温度低すぎたかな?」
「次はちょっと高温で淹れてみよう」
などと、お湯の温度、豆の粒度、豆の鮮度、お湯の淹れ方、などと少しずつ工夫を加えていきます。全部を一気に変えることはしません。だって何が上手くいったのかわからなくなるから。
そうして、20年も続けているとさすがに美味しいコーヒーの淹れ方も見えてくるものです。
失敗の科学の著者マシュー・サイドさんは、このような結果から得られる教訓を「試行錯誤し、進化せよ」という独特な言い回しで表現されています。
選択し行動するということ
なにもしないということ
さて、ここで、なにもしないとしたらどうでしょう?自分が本心で求めている答えにたどりつくことはまずありません。
「やらなければ良かった」ということもあるんじゃないか?
結果的にそうなることもあるかも知れません。でもそれは猿にタイピングをさせるようなものです。
とはいえ「なにもしないこと」がなにかをしていることもあります。孫氏の兵法に「動かざること山の如し」という言葉があります。武田信玄で有名ですね。
「ほんとに動く時がくるまで軽々しく動くんじゃない!」
という意味ですがこれは、あえてなにもしない、という選択です。そこには選択という見えない行動があるといえるでしょう。
選択に関わり行動する
どうでしょう。目の前に右か左か進む道があるとします。
たった二択でも20回も繰り返すうちに、行き先は100万通りにわかれます。もちろん大きく迂回して目的地に辿り着くこともあるでしょう。でもそれは行動を起こしたものだけの特権です。
運任せにせずひとつひとつの選択に関わり行動を起こすこと。それはなりたい自分に近づく最善の方法のひとつだといえるかもしれません。
少なくとも私は、娘にそうあってほしい。上の画像の私の娘は、右に行くのか、はたまた左に行くのか、あるいは元来た道を戻るのか、それは本人に選択に任せています。
右の道を行くのも、左の道を行くのもあなたの自由です。もしも「なりたいもの」があるのであれば自ずと道は決まってくるのではないでしょうか。
最後にまとめです。
まとめ
- チャレンジは誰しも不安がある。
- チャレンジできる人は、失敗の捉え方が違う。
- 人は、名言よりも具体的で現実的な過去の嫌な経験を優先する。
- 人間の性質を理解し、客観的に自分を観ることが前向きな行動につながる。
- 人は、ステータス、確実性、自律性、つながり、公平性を大切にするため、それらが壊れるリスクを嫌いチャレンジができない。
- 運だけでは、自分が求める正解に辿り着く確率は限りなく低い。
- 失敗、工夫、学び、成長による選択が人を正解に辿り着かせる。
- なにもしない、ということは運任せの人生と変わらない。
- ひとつひとつの選択に関わり行動を起こすことが「なりたい自分」に近づく最善の方法